遺品整理と地方自治体~高齢化社会で広がる孤独死の不安と対応

遺品整理と地方自治体~高齢化社会で広がる孤独死の不安と対応

少子高齢化、核家族化、生涯未婚率の上昇などの社会背景から、一人暮らしの高齢者が急増しています。

そんななか、「孤独死」「孤立死」という言葉が認知されるようになってきています。
内閣府の「平成29年度版高齢社会白書」によると、60歳以上の高齢者全体で、孤独死を身近な問題だと感じる人の割合は17.3%でした。

しかし、一人暮らしの人に限って見ると、45.4%と約半数にも上っています。
一人暮らしの高齢者にとって、孤独死は、「自分もそうなるかもしれない」「他人事ではない」という、差し迫った現実であるということがわかります。

こういった社会状況のなか、地方自治体では、どのような取り組みがなされているのでしょうか?

孤独死とは

「孤独死」とは、一人暮らしの人が誰にも看取られることなく、本人の住居内などで、突発的な疾病などによって死亡することをいいます。

この言葉は、日本で核家族化が進んできた1970年代に登場しました。
一人暮らしの高齢者が自宅で亡くなったのですが、誰にも気づかれず、久しぶりに訪ねてきた親族に発見された時には死後だいぶ経っていた、という事件の報道で使われたのが最初だといわれています。

このような事件は、1980年代に入ってたびたび発生・報道されるようになり、孤独死という言葉はマスメディアで繰り返し用いられるようになりました。

  • 「孤独死」の定義とは?
  • 「孤独死」か?「孤立死」か?

「孤独死」の定義とは?

多くの人が一定のイメージを持っている「孤独死」ですが、日本ではどのように定義されているのでしょうか?

実は、国ではっきりと決められた定義は今のところありません。
これは、死因を調べた時に、自然死、突然死、自殺など様々な状況があり、明確に定義されにくい部分が多いからのようです。

自治体 孤独死 定義

地方自治体に目を向けてみると、孤独死について定義しているのは、北海道と鹿児島県だけ。
北海道では「死後1週間を超えて発見された人」、鹿児島県では「65歳以上の一人暮らしで、誰にも看取られずに亡くなり、2日以上経った人」と定義しています。

「孤独死」か?「孤立死」か?

言葉に関していえば、日本の行政機関は、「孤独死」ではなく「孤立死」という表現をしばしば用いています。

たとえば、内閣府の「高齢社会白書平成22年度版」では「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」と表現しています。

これは、社会的に孤立してしまった結果、住居内で死亡しても、周囲に気付かれず放置されていた状況を指してのものと考えられます。

地域におけるさまざまな取り組み

一人暮らしの高齢者の死因の調査において、孤独死した人の中には、倒れてから数時間以上、長い場合では数日にわたって生きていたと考えられる事例があることがわかってきました。
このため、1990年代より様々な予防策が検討・施行されるようになってきています。

また、1995年の阪神・淡路大震災では、被災者が仮設住宅で孤独死するという事態が起きました。
仮設住宅での生活は、地域コミュニティが希薄になりがちです。このような生活が長期に及び、異変が起きても周囲が気付きにくく、病気で身動きが取れないまま死亡する人が出てしまったのです。

孤独死 被災者 自治体

この教訓から、災害復旧時の孤独死防止が求められるようになり、様々な地方で予防策が講じられるようになってきています。
厚生労働省が取りまとめた、地方における「孤独死防止対策事例」を見てみましょう。

  • 協力体制について
  • 見守りの方法について

協力体制について

協力員活用

岩手県奥州市、広島県福山市などで行われています。
同地域において、福祉スタッフ、見守り支援員を養成・配置し、高齢者の見守りを行います。

事業者との協定締結

福島県会津若松市で行っています。
新聞配達員や生協、ガス・水道・電気などのメーター調査員など、高齢者の自宅を訪れる機会のある事業員の活動を通じ、異変があった場合の連絡体制や協力体制をつくっていきます。

自治体 高齢者 見守り

ネットワーク構築

秋田県藤里町、栃木県などでは、近隣住民と協力しながら、支え合いの輪を広げたり、社会的援護を必要とする人を、地域全体で見守るネットワークを作っていく活動を行っています。
地域住民のみならず、自治体、警察、民間事業者による見守り体制の構築を目指します。

見守りの方法について

見守りを必要とする人の台帳・マップ作成

群馬県館林市で進められています。
一人暮らしや高齢者のみの世帯をまとめた台帳やマップにより、地域で情報を共有する方法です。

機器の活用

和歌山県すさみ町では、緊急通報装置や福祉電話、パソコン、人感センサー、タブレット端末、テレビ電話などの機器を活用し、見守りを行っています。

副次的効果

お弁当の配食、牛乳や乳製品の配達の際に高齢者の生活状況を把握したり、安否を確認したりします(山形県米沢市)。
また、岡山県奈義町では、地域サロンなど、住民組織との連携を図っています。

さらに、大阪府東大阪市のように、家具の店頭防止金具の取り付けなどをきっかけに、家の中や生活の様子を確認する方法をとっているところもあります。

相談窓口の設置

大阪府豊中市では、「安否確認ホットライン連絡窓口」を設け、キャッチした情報に対して素早く対応できる体制の整備に取り組んでいます。

また、福岡県福岡市のように、配送事業者やライフライン事業者、地域住民からの通報に365日対応する窓口を設置しています。

遺品整理と自治体

自治体は、高齢者が孤独死に至らないよう、さまざまな取り組みを行っています。
それでも、残念ながら孤独死が起こってしまった場合については、どのような対策を講じているのでしょうか?

  • 大阪府の場合
  • 青森市の場合

大阪府の場合

たとえば、公営住宅で、入居者が孤独死してしまったら、残された遺品はどう扱うべきなのでしょうか?

一人暮らしの高齢者には相続人がいなかったり、いたとしても、引き取りを拒否されたりするケースが増えています。
相続人に部屋の片付けを求める文書を郵送しても、返事がなかったり、宛先に届かず送り返されることもあるそうです。
係員が訪問しても、応答はありません。

大阪府では、このような状態では勝手に遺品を片付けることができず、10年以上も原状保存されている部屋も目立つそうです。

孤独死 大阪府 公営住宅

しかし、公営住宅は、税金によって運営されています。
「部屋を専有されたままでは市民に申し訳ない。できるだけ速やかに片付けるのが行政の役割」と、相続人に片付けを迫り、提訴に踏み切る自治体もあるといいます。

ただ、遺品の整理には費用がかかり、相続人が負担しなくてはなりません。
時間と労力をかけ、相続人をようやく捜し当てても、さまざまな理由で拒否されるケースが後を絶ちません。

府営住宅では、2015年12月の時点で、明け渡されない住宅は191戸にも上り、最長ではなんと15年間も未返還のケースもあるそうです。

少子高齢化がさらに進む今後、処分に困るケースはさらに増えることが予想されます。
そのため、大阪府は2016年6月、自治体が簡便に処分できるようなルールをつくるよう国土交通省に要望しました。

青森市の場合

孤独死が増える傾向にある現在、青森県では、清掃業者など9社でつくる「あおもり遺品整理協同組合」が設立されました。
これは、一人暮らしの高齢者が孤独死を迎えた際、遺族が背負う負担の軽減を目指しています。

近年増加している遺品整理業者ですが、まだまだ業者間や地域間によって作業品質や費用に格差がみられます。
「あおもり遺品整理協同組合」では、作業の質を向上し、かつ、費用についても平準化していくことも目標としています。

孤独死 自治体 青森

また、「あおもり遺品整理協同組合」では、遺品整理のサポートを目的とし、県内の市町村との連携を進めています。

孤独死が発生し、自治体が遺族から遺品整理の相談を受けた場合、同組合を紹介する仕組みとなっています。
この提携により、遺品整理の充実や、生活用品などの放置による近隣への環境悪化を防ぐことなどが期待されています。

まとめ

高齢社会の進展と家族の変容に伴い、単身及び高齢夫婦のみの高齢者世帯はますます増加し、孤独死の危険がさらに高まっていくでしょう。

今後、各自治体は、ライフライン事業者をはじめとした民間企業には高齢者の見守りを、また、残念ながら孤独死が起こってしまった場合には、遺品整理のエキスパートである遺品整理業者と、連携を強めていくと考えられます。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。