遺産整理のトラブル ①空き家問題

遺産整理のトラブル ①空き家問題

ここ数年、都心・地方を問わず「空き家問題」が各メディアで取り上げられています。
誰も住んでいない空き家が放置され、倒壊や火災などで周辺の家屋に大きな影響を及ぼす、もしくはその危険性がある、というものです。
総務省が平成25年(2013年)に発表した「住宅・土地調査」には、空き家に関して次のような調査結果が記されています。

「総住宅数は6063万戸と,5年前に比べ,305万戸(5.3%)増加
空き家数は820万戸と,5年前に比べ,63万戸(8.3%)増加
空き家率(総住宅数に占める割合)は,13.5%と0.4ポイント上昇し,過去最高
別荘等の二次的住宅数は41万戸。二次的住宅を除く空き家率は12.8%空き家率は,13.5%と過去最高に」

さらに過去のデータを見てみると、昭和38年(1963年)の空き家率は2.5%であり、この43年で10%以上も増えていることになります。
なぜここまで空き家が増えたのでしょうか。

高齢化社会では空き家も多くなる

その要因には、日本が抱える高齢化社会の問題が絡んできます。
核家族化が進み、なかでも65歳以上の高齢者の単独世帯、あるいは高齢者夫婦のみの世帯が増加しています。
同時に高齢者の突然死や孤独死も増えており、結果それら高齢者が亡くなったあと、住んでいた自宅が空き家になるのです。

平成25年に国土交通省が行った「住生活総合調査」で、空き家の活用法についての回答は「空き家のままにしておく」が49%を占めています。
さらに「空き家の危険性の有無」については、危険性を感じた経験を持つ人が24%もいるという結果となりました。

日本の高齢化は今後進んでいく一方です。
内閣府が平成27年(2015年)に発表した「高齢社会白書」を見てみると、65歳以上の高齢者は、同年の時点で3395万人、総人口の26.8%にあたります。
さらに高齢者は、東京オリンピック後の2025年には3657万人(総人口の30%)に、75歳以上の高齢者は2015年の1646万人(同13%)から、2025年には2179万人(同18.1)に達するという予測が出ています。
そうなれば、空き家問題はさらに深刻化していくかもしれません。

高齢化社会とは別に、東北の空き家は、2011年3月11日の東日本大震災の影響も大きいかと思います。
震災によって完全な倒壊でなくとも、住めない状態になってしまった家屋が数えきれません。
被災地から避難している方々の自宅はもちろん空き家となってしまいます。
2016年4月14日に発生した熊本地震でも同様の問題が生まれており、空き家など家屋に対する影響は、今後さらに拡大していくはずです。

一方、介護付き有料高齢者入居施設(いわゆる老人ホーム)も次々と建てられ、多くの高齢者が自宅から老人ホームへと引っ越しています。
介護スタッフもおり、住みやすい施設ですので、家族も含めて高齢者施設への転居を希望される方が多いのも当然でしょう。
とはいえ、どちらにしても、もともと住んでいた家が空き家になるという結果は変わりません。

そのため、遺品整理業者には、亡くなった方の家を片付けるだけでなく、高齢者施設へ移った方の住まいを整理するという依頼も続々とと来ています。
実は空き家を放置しておくと、遺族も大きな影響をトラブルに巻き込まれる可能性が生じます。
「空き家問題」は、遺品整理においても無視できない問題となっているのです。

空き家を放置するとトラブルが生まれる

平成27年(2015年)、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。
周辺へ大きな被害をもたらす可能性のある空き家を「特定空家等」と定義し、各自治体はこれに対し、改善の指導、勧告、命令をすることができると定められたのです。

同法律のなかで「特定空家等」は以下のように定義されています。

・そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
・そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

つまり倒壊や火災、有害な臭い、景観を損なうなどの影響を及ぼす可能性のあるものが「特定空家等」となります。

と聞いても、「空き家問題と遺産整理に、どんな関係があるの?」と思う方もいるでしょう。
そんな方のために、次は遺産整理と空き家問題の関連性をご説明します。

1.相続と不動産登記

親御さんが亡くなったあとは、遺族は3カ月以内に遺産を相続するか否かを決めなくてはいけません。
不動産の相続方法は2つあり、ひとつは不動産を処分してお金に換え、遺族でそのお金を分けるというもの。
もうひとつは、遺族のうち誰かひとりが不動産を受け継ぎ、他の相続人に相応の金銭を支払うというものです。
不動産に関するトラブルで最も多いのは、この相続の問題です。
遺品整理の際に親の遺産のうち、不動産がどれだけあるか細かく調べ、適切に対応しておきましょう。

相続の手続きが終わると、次は不動産の名義変更(相続登記)に移ります。
不動産は一度、名義変更を行わないと、元の持ち主(この場合は故人)以外が売却することはできません。家を取り壊す場合も同じように、名義変更が必要です。

家を受け継ぐとしても相続税や固定資産税か掛かってきます。
基本的に固定資産税は、固定資産税の評価額(多くは土地や家屋の価格の70%)に標準税率の1.4%を掛けた金額になります。
たとえば固定資産税評価額が3,000万円の一軒家であれば、固定資産税はその1.4%=42万円です。

一方、取り壊すにも一軒家の解体を業者に依頼すると、高額の料金が発生します。
解体作業の相場は全国平均で、ひと坪あたり3.5万円とも言われています。50坪の一軒家を解体するには、最低でも175万円が必要となります。
どちらを選ぶとしても、そう簡単に決断できる金額ではありません。ところが、決断を先延ばしにしていると、大きなトラブルの要因となってしまうのです。

持ち主が亡くなり、誰も住んでいない期間は、その家が空き家となります。
この時、空き家を放置したまま「特定空家等」に指定されてしまう恐れがあるので注意してください。

2.空き家の固定資産税が6倍に!?

土地や家屋の所有者は、毎年1月に固定資産税を支払います。固定資産税には特例があり、住宅用地で一定の条件を満たすと、税金が最大で6分の1に減免されます(住宅用地特例)。
しかし「特定空家等」と見なされると、この減免の対象外となり、固定資産税が最大6倍まで増えてしまう可能性が出てくるのです。
上記の例でいえば、住宅用地特例に基づけば最大年間7万円まで減免されていた固定資産税が、42万円まで上がってしまいます。
金額差を聞くだけで、遺品整理において空き家問題がどれほど重要なことかがわかるのではないでしょうか。

裏を返せば、「空家等対策の推進に関する特別措置法」は、「住宅用地特例」があるために増え続ける空き家、それとともに発生する空き家問題を抑制するために生まれた法律でもあります。
各自治体はこうした法令と同じく、これ以上空き家が生まれないための対策も講じているので、遺産整理のために事前に把握しておいたほうが良いでしょう。

多くの自治体が、空き家の活用を促すために補助金を出しています。いくつか例を挙げてみましょう。
冒頭にも登場した総務省「住宅・土地調査」では、東京都の空き家率は11.1%。
その東京都は一定の条件をクリアすれば、1)国と都の共同、2)都のみ、の2パターンで、空き家の改修について、補助対象費用の最大3分の1を支給してくれます。
都だけでなく、一部の市区町村も空き家活用のための補助金を支給しているので、それぞれ調べてみてください。

同じく総務省の調査で、空き家率全国1位(22%)となった山梨県はというと、県庁所在地である甲府市も平成27年まで一軒家のリフォームに対する補助金の制度を設けていました。
ほかにも多くの自治体が改修費用の補助を行っています。ぜひ活用してみてください。

さらに、補助金の対象は改修だけではありません。解体費用に対する補助金を支給している自治体もあります。
前述のとおり高額の費用がかかる解体作業ですが、解体して空き地にしたほうが、遺族も管理の時間・労力が必要なくなり、また売却しやすくなるという利点もあります。
解体もまた、空き家を活用するための有効な手段のひとつなのです。

都内でも市区町村別の空き家率ランキングで上位に入る荒川区と足立区は、そんな解体工事費用の一部を助成してくれる自治体です。

改修もしくは解体費用の補助金については、各自治体により審査方法、金額などそれぞれ異なります。詳細は必ず対象家屋のある自治体に確認してください。

3.自治体の空き家相談窓口を利用しよう

様々なメディアで空き家問題が取り上げられ、これまでご紹介した法令や補助金制度もあることで、多くの自治体が空き家対策の相談窓口を設置しています。
空き家問題に関するセミナーを開催している自治体もあります。
また、空き家の賃貸・売却を希望する人と、空き家を利用したい人たちのための「空き家バンク」を運営している自治体、民間団体も増えています。
特に今はインターネットの発達により、都心から地方に移住し、インターネットを使って都心住まいの時と変わらぬ仕事をこなすという人々も増え、そんな地方移住がブームともなっています。

4.悪徳業者に注意!

遺品整理では、このように故人が遺した家屋の利用法も考えなければいけません。
そこでここまでご紹介した作業についても、悪徳業者の存在には十分に注意してほしいと思います。

家屋の解体でいえば、解体業者を探す時には、その業者が「解体工事業」として都道府県に登録されているかどうかを確認しましょう。
解体業を営むためには、重機で家屋を解体し、廃棄物を適正に処分するための登録が必要となります。産業廃棄物処理業の許可を得ているかどうかも確認しなければいけません。

葬儀会社や不動産の管理会社から「指定業者」の紹介を提案されることもありますが、業者によって内容や料金は様々です。
できれば2~3社から相見積りを取り、それぞれの内容と料金を比較してから決定するようにしましょう。
実際に業者へ質問や相談をぶつけ、誠実に回答を出してくれるかどうかも、業者を選ぶ基準のひとつです。

まずは遺品整理業者に相談すると、不動産業者、解体業者、リフォーム業者など、それぞれ資格を有しているしている専門業者を紹介してくれるはずです。
確かに業者へ仕事を依頼すれば、それぞれ料金はかかります。ところが遺品整理は専門的な知識や経験が必要なことも多い作業です。
その代表的な例が、空き家問題であるとも言えます。
遺族の方々は決して自分だけで所々の問題を抱えこまず、困ったことがあれば各専門業者にご相談ください。

この記事の監修をしたゴミ屋敷の専門家

氏名:新家 喜夫

年間2,500件以上のゴミ屋敷を片付け実績を持つ「ゴミ屋敷バスター七福神」を全国で展開する株式会社テンシュカクの代表取締役。ゴミ屋敷清掃士認定協会理事長。